若い頃は映画をよく見ていました。
その後は時間がなくなったのか、現実にまみれ過ぎたのか、映画を見なくなりました。
なので「PERFECT DAYS」は本当に久しぶりに見た映画でした。
たくさんの方が解説や感想を書いていて、読むのが楽しみでした。それぞれの「PERFECT DAYS」がありますね。映画に正解はなくて、それぞれに考えたり楽しめばいいのだと思います。
私も、立派な文章は書けないけど、思ったことを書いてみます。
●トイレ掃除中の平山さんの扱い
平山さんが掃除中に若い男がトイレに入ってきたので、平山さんは外に出ました。若い男は用が済むと、平山さんの商売道具である「清掃中」の黄色い看板を蹴とばして去って行きます。
そこに人間がいるのに、まるで存在しないかのようでした。看板を蹴とばしても何とも思っていない様子でした。
次に平山さんはトイレで泣いている迷子の男の子を見つけました。
手をつないで外に出ると、母親が現れ、「うちの子に何すんのよ」ぐらいの目つきで平山さんを睨みつけ、さらに平山さんとつないでいたほうの男の子の手を除菌ペーパーで拭いてから、手をつないで去って行きました。
これらのシーンが気に留まったのは、派遣で働いていると似たようなことがよくあるからです。程度の差はありますが、この若い男や母親的人々が、体感95%ぐらいでしょうか。
平山さんは淡々と掃除を続けますが、たぶん私と同じことを感じていたのではないかと想像しました。
姪のニコが掃除について来た時、平山さんが掃除しているトイレに女子高校生が入ってきたので、平山さんは掃除を中断して外に出ました。
ニコはそれを見て、ちょっと怒った表情を見せました。雑誌の解説によると「おじさんが邪険にされている」と感じたそうです。
ニコが平山さんを見ると、平山さんは笑っています。「いつものことだよ」ってとこでしょうか。でも自分の気持ちを分かってもらえたようで、おじさんは嬉しかったかもしれません。
●ラストシーンの平山さんの表情
平山さんがなぜ泣いたり笑ったりしているのかについて、様々な意見がありました。
役所さんのインタビューによると、シナリオには「平山は突然泣く」とだけ書いてあったそうです。そして当日「泣いてほしいけど泣かなくてもいい」と監督に言われたと。あの表情はすべて役所さんが考えた演技なんですね。
平山さんは、おそらく父親との間に何かがあって、今こういう生活をしているのでしょう。
姪のニコが家出して訪ねて来たり、そのことで長年連絡を絶っていた妹と再会したり、行きつけの飲み屋のおかみさんが男といるのを偶然見て動揺したり、それが重い病気に罹っている元夫で、最後に元妻に会いに来たのだと話を聞いたり。
静かに暮らしていた平山さんの感情が大きく揺さぶられる出来事が、たて続けに起きたのでしょう。
それを経ての、あのラストシーンでした。
皆それぞれ大変だけどがんばって生きてる、自分もいろいろあって、諦めたこともあるし、仕事で邪険にされたりもするけど、でもこれでいいんだ、これが自分なりの「PERFECT」なんだと、この日心から納得できたのではないか… というのが私の想像です。
平山さんが、つながっているように見えてつながっていない世界があると言っていましたが、平山さんがいるほうの世界に自分もいるのだと思います。
平山さんのように、誰と比べるでもなく、誰に見せるためでもなく、自分なりの幸せの基準をしっかりと持つことが、こちらの世界でそれなりに幸せに生きていくコツだなぁと思いました。いいお手本ができました。